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[瀬戸内市の地名と人々の営み]7.3.福岡

福岡

 丘陵の一角である山方前の周辺に製鉄集団が居住し、炉を築き鉄鉱石を運び込み、大量の炭を焼いて鉄を作った。山方前の隣の弥ヶ奥池の谷は未調査であるが製鉄炉が築かれていた可能性がある。浦間の金黒谷、西祖の山方前一帯は大きな鉄の産地であった。
 この鉄の産地一帯が福岡という地名の発祥地であったと推測できる。炉で鉄を作ることを「鉄を吹く」と言い、銅を作ることを「銅を吹く」と言う。この「吹く」が「福」に当て字されたと推定される。
 吹くが福に当て字された例に『和名抄』に備前国御野郡伊福郷がある。岡山市北区伊福町が比定地とされている。伊福郷は伊福部氏の居住地で製銅あるいは製鉄に従事したとされている。
 『広辞苑』第五版には「いぶき(息吹・気吹)」(イは息の意。上代はイフクと清音)について、(一)息を吹くこと。呼吸。(二)活動の気配。生気」と記述されている。
 息を吹くことが製鉄・製銅の際に行われる送風の意に転じ、鉄や銅を吹くと表現したのであろう。更に送風の意が製鉄・製銅の全体の意になったと考えられる。「伊福」は息吹が宛字されたものであろう。
 福についてもう一つ例を挙げると、たたら製鉄が盛んに行われていた鳥取県日野郡日南町宮内に、「東楽々福(ささふく)神社」と「西楽々福神社」が祭られている。楽々はササと読み砂々(ささ)の宛字で砂鉄のことである。楽々福とは砂鉄を吹く意で製鉄全体を意味し、製鉄の神の名称となって祀られた。また同町上菅には「菅福神社」が祀られている。菅福も楽々福と同じ意である。菅は砂鉄産地の代名詞のようなもので、各産地に菅谷などの地名が多く分布している。
 嘉応二年(一一七〇)、福岡荘の作麦畠注文案(『東寺百合文書』)に「百枝月村・吉井村・福原土居・今村・居都村」の地名が記載されている。
 福原土居の場所は分からないが福原は福岡と同類の地名である。土居は豪族屋敷にめぐらした土塁のことであるから、製鉄集団を支配した豪族の屋敷と推測できる。その屋敷が著名であったため福原土居の地名になったのであろう。このことから福原土居の一帯が福原という地名であったことが推定できる。
 県内に福岡は小字地名として点在している。
  真庭市阿口小字福岡
  新見市草間小字福岡
  美作市今岡小字福岡
 この三ヵ所の福岡の周辺は大きな産鉄地であることが参考になる。


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